はじまりの音楽


私はあまりまじめに音楽を聴いている人ではない。多分。
no music no life は私の為の標語ではない。
まったくもって気まぐれに音楽が生活の中にときどき現れる。


私の中でバッハの音楽というのはバッハの音楽であってクラシックというカテゴリではなかった。
ただバッハというジャンルの音楽だった。長い間。
子供のころ嫌々習っていたピアノで弾いた曲集の中で唯一、心に響いてきたインヴェンションと
シンフォニアの練習曲とグレン・グールドの弾くバッハ。
バラ色サクラ色なモーツアルトショパンが大好きだった私の先生とはとことん気が合わなかった。
バッハが好きだといったら、変人といわれたくらいだから。


だからその頃の後遺症でバッハ以外のクラシックをあまり聴いてこなかった。
ピアノの音楽はもちろんぼちぼち聴いてきた。
でもそれはチックコリアやビルエヴァンスやキースジャレットやルバルカバ、
ジスモンチやはたまた坂本教授のピアノであって、クラシックではなかった。


そして今、15年のときを経てベートーベンのピアノソナタの前に驚愕している。
ああ、これが音楽だったのか?
ベートーベンは運命を作ったから巨匠といわれてきた訳じゃなかったのね、と自分の音楽音痴に驚く。
そして、これから聴くべき人類の遺産がいきなり私の目の前に現れた幸せにうろたえている。
新しい作家を読み始めたときと同じ喜びだ。カルヴィーノマルケスに出会ったときの喜びだ。


ベートーベンのピアノソナタというのはなんと32曲もあって、
それぞれ3楽章か4楽章あるからものすごい巨大な曲集。
買ったのはもちろんグールドなのだけど(ベートーベンに関していえば
グールドは定番どころかきっと異端だろうけど。)、
1曲、いや1音1音がものすごい厚みで迫ってくる。
とうてい1週間や2週間では聴きこなせない。


最近、毎朝ベートーベンで通勤している私はかなりへんな自転車通勤者。
自転車には軽〜いテクノ/アンビエントと決まっていたのだし、
白いちっちゃなipodと重たい巨匠のベートーベンはなんだかへんな組み合わせだ。
でも、ベートーベンは何と言ってもドイツ人だった訳だし、
毎朝通るBeethovenplatzという名の広場にもなんだか愛着がわいてきたり。


ただこの巨匠音楽、BGMにはまったく不向きなのが困った。
聴き始めると仕事ができない。

ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ集 I

ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ集 I

ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ集 II

ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ集 II