生物と無生物のあいだ


なぜかここのところ生物系読書が続いているのだけれど、この本を読んでいたら建築か生物かで真剣に悩んでいた高校生時代を思い出した。あの頃「二重らせん」や利根川氏の「精神と物質」を読んで真剣に生物学に行こうかと思ったりしたけれど、化学が嫌いだったので実験研究系は向かないだろうと心のセンサーがピピっと正しい道へと導いてくれた。ああ,間違わなくてよかった、と今でも先端科学の現場系の読み物を読む度に思う。
ものすごくアバウトな性格の私に、こんな緻密な思考力と実験技術を要求する現場は向いていない。


ところで、去年から話題らしいこの新書が相棒君文庫にあったので、週末ちょっと集中して先に読了。もし池澤夏樹の理系ロマンチックな文体が好きな人はきっと面白いと思う。私はあの繊細すぎるロマンチシズムが苦手なので、内容より文体に最後の方はちょっと辟易。前半は20世紀最大の発見の一つ、DNAの螺旋構造発見に至る道のりが生物学的にどのような意味があったのかを、いろいろなサイドストーリーを通して語られる。その辺は、知らないことも多いし楽しめる。個人的には千夜千冊でおすすめだったシュレディンガーの「生命とは何か」が復刊になって買ってあったのに読んでなかったので、この本の生物史上の意味が分かったのはよかった。後半は作者がやってきた研究の内容があたかもそのワトソンクリック以降の生物史のメインストリームの中に位置づくかのように読めてしまい、ちょっと不満。


本書を通して作者は「生命とは自己複製を行うシステムである」というワトソンクリックが予言したテーゼと「生命とは動的平衡状態にあることである」というシェーンハイマーの示したテーゼから現代の生物学がすすもうとしている方向を書こうとしているのだろうけれど、この話は大学の教養生物の授業で読んだ清水博氏の「生命を捉えなおす」以上の話ではなかったような気がする・・・。この本を読んだときは、自分の中で何か生命の意味が揺さぶられるような衝撃だったけれど。


生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

↓この本が千夜千冊で出た時はうれしかったなあ。そのあと思わずシュレディンガーの方(感想はコチラ)も買ってしまったのだった。
生命を捉えなおす―生きている状態とは何か (中公新書)

生命を捉えなおす―生きている状態とは何か (中公新書)