チェーホフ/桜の園

jiu2008-01-30



このところ積読削減強化対策中なので、とにかく5mm以下の厚さの文庫本からやっつけている。かれこれ神田の古本屋で買ってから10年以上も読んでいなかったチェーホフ桜の園」を読んだ。なぜこれを買ったのかといえば、同名の吉田秋生の作品の中心モチーフだったから。吉田秋生桜の園は唯一こっちに引っ越すとき持ってきた漫画、というほど好き。


だから、チェーホフと聞くと読んだことも無いくせに,淡く桜の咲き乱れる風景とともに勝手に感傷的になれるくらいだ。その原作を20年の熟成の時を超えてはじめて読む甘酸っぱい感慨。これを読みながら考えていたことは、この作品を毎年4月の創立祭に上演するというどこかの丘の上の女子校の話だ。あの女子高生達がこの100年以上も昔のロシアの没落貴族の話を上演しつづけるそこはかと無いおかしみ。それは、女子校という桜の園、時代とずれて行くそのシステムの中に生きる少女達のあまりに生々しい生そのものなのだ。この古いロシアの戯曲の台詞と高校生の女の子達の会話の不思議な邂逅が、思春期の性というものがもつアンバランスさや危うさを見事に紡ぎだして行く。


女子校育ちの私には、この風景が実の心象風景としてこころに沁みる。創立時代から繰り返される伝統行事。毎年咲いては散っていく桜。入学式。卒業式。古いもの。新しいもの。その少しだけ時間を止めたような空間にたゆたった思春期の数年。高校時代、そして大学時代になっても胸を痛めながら台詞を全部覚えるほど読んでは泣いた。


チェーホフ桜の園は、貴族という何百年もつづいてきた時代の制度を散り行く桜にたとえて、その楽園から追い出されて行く人たちの一瞬の風景を美しく書く。何百年もそこにあった桜がその年を最後に切られることになる残酷さを予告しながら、舞台はその長い時代をながめてきた老使用人の独白で締めくくられる。


もう何年も桜を見ていない。ドイツには桜の園、というほど桜が咲かない。だからロシアの寒冷な大地にどうして桜が咲くのかちょっと不思議だ。それにしてもなぜ、日本の桜はあんなにも狂おしく美しく咲くのだろうか?私はいつか桜を見に帰れるだろうか。


桜の園・三人姉妹 (新潮文庫) →チェーホフby新潮文庫
櫻の園 白泉社文庫 →吉田秋生
櫻の園 [DVD] →(DVD)映画もおすすめ。
(映画の評は山形さんのをどうぞ→http://cruel.org/cut/cut199110.html)