対立と矛盾


わたしの学生時代、現在を通して、何度も読み返している本がある。
Robert Venturiの "Complexity and Contradiction in Architecture"という本だ。
邦題は「建築の多様性と対立性」という。読んだのはもちろん日本語版。



最近、ふと"Contradiction"の意味を調べてみた。
「対立」という英語の単語を知りたかったからだ。


ジーニアスによれば、
Contradictionは
1.矛盾、矛盾した言動、
2.否定、反論、否認、反対の主張
である。


あれ?「対立」という意味が入っていない。
Complexityも調べてみると
複雑さ、複雑性、
とある。


むむむ。今まで「多様と対立」という概念でとらえていたものが
じつは「複雑と矛盾」だった。
多様性は意訳だったとしても理解できる。複雑さが生み出す多様性。
でも、対立すること、と矛盾することはすこし違う概念なのではないか?
実はこの本2度目の邦訳な訳で、かなり過去の翻訳から改善された
のでは無かったの???あえて「矛盾」を「対立」と訳した意図は
なんだったのだろう?


例えば、シンメトリーなファサードの中にアシンメトリーなエレメントがあることを、
対立と訳している訳だが、これが矛盾という言葉で表されなくてはならないなら
すこしニュアンスは違ってくる。


なんだかとても気になる。
「対立する」というのは一昔まえの米ソとか南北コリアとか
そういう関係を言うのであって、それは矛盾している訳ではない。
確固たる原因がある。


大きなエレメントと小さなエレメントが屹立することは
対立ではあっても、矛盾ではない、翻訳者は考えたのか?
それでもベンチューリはこの関係を矛盾と呼びたかったのではないのか???


この本、日本の建築学生はいまだによく読んでいると思うが、英語版を探したらなんと品切れ。
古本を買うしか無い状況。ううう。40ユーロはちょっと高いなあ。(日本円で6000円)
なにせ日本語版は1800円だからなあ。ドイツ語版はちょっと読みこなせる自身がないしなあ。
それにしても、アメリカ人はもうヴェンチューリを過去の人と見なしていることなのか?
なんだか寂しい。

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ちなみに「対立」を表す英語は以下:
antagonism // antipathy // conflict // confrontation // contraposition // hostility // polarity // split // tension


建築の多様性と対立性 (SD選書174) (SD選書 (174))

建築の多様性と対立性 (SD選書174) (SD選書 (174))